受賞対象研究:
喫煙行動に関連するストレスとSense of Coherence (SOC)
―生活習慣と心理的要因を用いた正準判別解析
概要:
喫煙の健康に及ぼす悪影響は周知のこととなっており、たばこと健康の問題に対する関心が高まっている。にもかかわらず、わが国の成人男性における喫煙率は経年的にみて漸減傾向でありながらも大幅な減少はみられず、他の先進諸国に比べて高率である。このような社会的背景には、勤労者のストレスは大きく、喫煙のストレス緩和作用を容認する傾向があるともいわれている。勤労者のストレスを鋭敏に評価できる指標が、近年、開発されたことから喫煙とストレスの実態を検討し、喫煙によるストレスの影響を詳細に調べた。
ストレスの指標をSense of coherence (SOC)を用いて、個人のストレスの度合いを評価した。これは、ストレスの処理能力、すなわち、ストレスに際しても感情的にも、行動的にもストレスがないのと同じように如何に自己を保つかを調べる指標である。SOC得点は低いほどストレスが低いことを示す。SOC得点の平均点は全体で125.1点であった。喫煙状況分類の3群別では「喫煙している」者が123.6点と最も低く、以下「喫煙していない」者が126.7点、「やめた」者が128.1点と続いた。喫煙者でSOC得点が最も低かったことは注目すべき結果である。喫煙の理由もしくは動機としてイライラの解消、気分転換といったストレスの解消が挙げられる。喫煙の身体的健康に及ぼす悪影響を認識しつつもたばこがやめられない理由は、ストレス解消という精神面への好影響を感じていることにもあるであろう。喫煙によってストレスが軽減されるとすれば、喫煙している者はしていない者よりもストレスが少ないはずである。しかしながら本研究では喫煙者がもっともストレスを感じ、かつストレス処理能力が劣っているという結果であった。この結果は喫煙がストレス解消に対して無益であることを示しているにとどまらず、喫煙することによってよりストレスを増強するという有害性の可能性をも示している。
健康の身体的側面だけでなく精神的側面にも悪影響を及ぼしているとすれば、まさに喫煙は「百害あって一利なし」である。若年者や女性の喫煙率の上昇やたばこ消費量の拡大、たばこ関連疾患による死亡者数の増加、それに伴う医療費の問題なども含め、国家レベルから個人レベルにおいて健康を考える上で、喫煙対策は、急を告げる時期が来たようである。