教室概要(About)

教授より挨拶

「21世紀は予防の時代である」と言われて久しいですが、その間、予防の1番の目的である生活習慣病や感染症などの疾患の罹患率が決して低下した訳ではありません。また健康寿命が十分、延伸したとは言えません。これは予防医学を専攻する者にとって大いに反省すべきことでもありました。予防医学の理念では生涯一貫した保健医療福祉制度によって全員が健康の恩恵を受けることができることが大前提ですが、実際は健康に関する行政システムへの個人参加の偏在や、もたらされるべき行動変容の個人差が著しいことによる健康格差が存在し、また生活環境の健康への影響が個人ごとに異なるため、理想的な予防医学が展開されてきたとは言えません。したがって罹患率の低下や健康寿命の延伸のためには、個人差を考慮した予防医学の展開を科学的な根拠をもって実施しなければなりません。
従来から、予防には3つの次元があり、1次予防は環境整備や生活習慣改善、2次予防は疾病の早期発見、3次予防は疾患の再発・悪化予防に分類して参りました。このような予防法をマクロ予防と呼んでいますが、昨今、分子生物学的手法を用いる予防法が提示されるようになりました。それがゼロ次予防であり、DNAの塩基配列などの遺伝子情報を用いたミクロ予防法を言います。スーパー予防医学とは、このゼロ次予防を含めてゼロ次から3次までを網羅し、個人の生まれながらの特性にあわせた予防法を提供するテーラーメイド型の予防法です(図1)。

図  スーパー予防医学の概念図

金沢大学医薬保健研究域医学系衛生学・公衆衛生学分野は石川県志賀町の研究フィールドを中心とした疫学によって、新しい診断法・予防法の開発に必要なデータ、すなわち、生活習慣や食生活、様々な環境、症状や状態あるいは疾患を含めた従来の個人の特性に加え、ゼロ次予防に必要な遺伝子情報をコホートととして着実に整備します。このことによって、予防法を多角的に検証・評価し、予防法の精度を飛躍的に向上するスーパー予防医学を実践します。また従来の疫学や栄養などによる介入研究にバイオインフォーマティクスを組み込み、予防における確固たる科学的証拠を作ります。このような予防医学研究戦略によって、予防医学の世界的研究拠点を形成します。

以上のように、衛生学・公衆衛生学分野は、疫学を研究の基本とし、新しい予防法を開発あるいは社会実装することによって世界的な予防医学研究を展開します。関係者の方々には、これまでのご支援に厚く御礼申し上げますとともに、今後ともご指導の程、何卒、宜しくお願い申し上げます。

金沢大学医薬保健研究域医学系衛生学・公衆衛生学分野教授 中村裕之